鹿児島県西部に位置する日置市(ひおきし)は、薩摩焼や優れた泉質を誇る温泉など、数多くの資源を有するエリア。「ここ日置市は父の故郷です」と語るのは、LR株式会社の代表取締役・末永祐馬さん。新卒で楽天に入社し、26歳のときに日置市で起業。九州や近畿、四国、中国地方の市町村と連携しながら、ふるさと納税やネット通販の運営代行事業を営み、契約自治体の事業黒字化と売り上げアップに貢献してきた。日置市のふるさと納税寄付金額は、468万円から16億円に増加している。末永さんが感じた自治体と地域企業の可能性、イノベーションに必要なことを伺った。
政治家志望だった学生が地域商社に
LR株式会社は2016年に創業、今年で8年目を迎える。
代表の末永さんは、「日本を良くしたい」という思いを長年抱いていた。それを実現するために学生時代から行動を始める。まず目指したのは、政治家の道だった。
「もともと政治家になりたくて、大学生のときに国会議員の第三の秘書をしていました。政治活動を間近で見させてもらうなかで、政治の世界は“思い”だけではやっていけないことを目の当たりにしたんです。ちょうどその頃、政府が地方創生を掲げて、地域に根ざした事業を展開する民間企業が出てきた時期でした。民間でも『日本を良くしたい』という目標を達成できるのではと思い、地方創生事業をスタートしたばかりの楽天に新卒入社しました」
2013年4月に楽天へ新卒入社し、東京都品川にある本社ビルに勤務していたが、同年の8月には鹿児島県への転勤が決まった。
「ずっと東京で働くのだろうなと思っていたので、転勤の話がでたときは驚きましたね。楽天はゆかりのある地が転勤先になることが多く、僕の場合は父が鹿児島県出身だったのでその縁で決まりました」
鹿児島支社では、ECコンサルタントとして奔走したという。
「楽天のネットショップに出店している鹿児島・宮崎の小さな商店に足を運んで、『これをどう売って行きましょうか』と話し合いをする日々でした。そうやって地元の人たちと触れ合っていくと、めちゃくちゃ熱い人に出会えたり、ものすごくいいモノを見つけたりするんです。これが埋もれたままではもったいない、という思いからネットショップ運営支援をしていましたね」
地道な支援を続けるなかで頭角を現したのが、宮崎県高鍋町の夫婦が運営するネットショップだった。
「脱サラしてジャムの製造・販売をする夫婦のコンサルに入りました。そこでアーモンドの輸入もできるということで、『じゃあアーモンド小魚を作って、ネットで全国に販売しましょう』とか『ネットショップに掲載する写真はこれにしましょう』とか提案して、1年で月商1000万円超え、2年後には従業員が50名にまで増えた例がありました。仕事がハードなときもありますが、そのような成長されている方々の声を電話で聞いて元気をもらっていました」
日置市で感じた、ふるさと納税の可能性と課題
2016年に楽天を退社し、同年に26歳の若さで鹿児島県日置市にLR株式会社を創業する。なぜ日置市を選んだのか、末永さんはその理由をこう話してくれた。
「一つは、良いモノがあるからです。地場産品がたくさんあって、かつ品質も高い。ちゃんと売り出していけば伸びると確信していました。もう一つは、良い人がいるから。例えば薩摩焼の陶芸家さんは、見た目は気難しそうだけど、僕らが話を聞きに行ったときには、帰り際に見えなくなるまで手を振ってくれました。そういう温かい人たちがいっぱいいるんですよね」
良い人が作る、良いモノをたくさんの人に届けたい。その一心で、地元で頑張る事業者のもとを訪れては、パッケージデザインやネットショップのレイアウトに至るまでコンサルティングを行った。地元の人が口を揃えていうのが「自分は大したモノを作っていない」という言葉。しかし、他県から移住してきた末永さんにとって、日置市の特産品はどれも宝物のように見えた。
地元の人々と話し合い、ふるさと納税への出品へつなげていく。結果として、日置市のふるさと納税寄付金額は、2016年の468万円から大幅に増加し、2022年にはおよそ16億円を達成した。
メリットばかりのように思えるふるさと納税だが、一方で課題も感じているという。
「ふるさと納税の市場が大きくなると、規模の大きなメーカーが価格競争に入ってくる。そうすると小さな小売店は戦うパワーがなくて、負けてしまう可能性があります。そういった現象はこれまでネットショップにはありましたが、その波がふるさと納税にも来つつあるような気がします。だからこそ、僕らが小売店と力を合わせて、知恵を絞っていかないといけないと強く思います」
26歳で起業、支えてくれた地元の人たち
日置市が父の故郷であるとはいえ、神奈川県で生まれ育った末永さんのことを知る人は少なかった。26歳の若者の声に、地元の人が耳を傾けてくれるのか、起業当初は不安もあったようだ。
「老舗のお店もあったりして、26歳のペーペーの話は聞いてくれないのではと思うこともありました。ですが、実際にはみなさんちゃんと話を聞いてくださって、一緒に地元を盛り上げていこうと応援してくれたんです」
地元の人々に受け入れてもらうために、末永さんはあることを意識していたという。 「ギブ・ギブの関係になることを意識しました。まずは自分から“与える”、そうしなければ誰かに何かをもらうことはできないと考えていて。地元の飲み会に参加して自分のことや事業のことを話したら、相手もいろんな情報を教えてくれるようになりました。知らない土地は疎外感があるという人もいますが、きっとそれはギブが足りていないのだと思います」
地元の人たちと話すなかで、日置市ならではの困りごとも耳にするようになった。
「日置市は山が多くて、そのほかは住宅が建ち並んでいます。だから工場を誘致したくてもできなかったり、オフィスを広くしたくてもできなかったり、会社を大きくする投資がしにくい環境です。さらに、IT人材も不足していて、Webサイトを作るときには大都市にある会社に依頼をしている状態でした」
少子化や東京一極集中により、ほかの地域では廃校が増えてきている。日置市でも、2020年に日吉小学校が廃校になった。それを活用して市民の課題を解決できないかと考え、2023年6月にワーク&コミュニティスペース「日日nova」を日吉小学校跡地にオープンした。
「これまでWebの世界で地域創生に取り組んできましたが、いつかはリアルな場で挑戦したいと思っていました。日日novaにはワークスペースや会議室を作り、個人利用から企業入居にも対応しています。また勉強会の会場として使っていただけて、例えばここでITスキルの勉強会を開いて、IT人材を育成できれば、日置市内で仕事を回すことも可能になるでしょう。そういった成功事例をこれから作っていきたいです」
地域は“リスクをとること”でもっと良くなると末永さん。その理由を『読むふるさとチョイス』で語っています。
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