島に戻り、漁業に向き合う
福士水産代表の福士吉則さんは、兄の病気をきっかけに23歳の時、東京から利尻島に戻り、兄の代わりに水産加工の世界へ。そこから、海とともに生きる日々が始まった。
「今年はウニもホッケもホントに取れなくてね……」
「最盛期の7月だというのに――今年は3回くらいしか漁に出られなくて」
長期的な気候変動と、年ごとの天候に大きく翻弄される海の現実。それでも彼には、漁業から降りる選択肢はなかった。
ウニと昆布の収穫量は近年減少の一途をたどっている。海に漂う昆布と、昆布を食べて育つウニは、水温上昇や海の酸性化に敏感に反応する。それでも福士さんは「妥協しない」。
組合が選別で落としたB品や、仕入れで混じる低品質のものを、福士水産ではしっかり分けて販売。〈利尻島産〉の品質への信頼を維持するための、強い意志だ。

生産者の想いを“届ける言葉”に変える
福士さんが信頼を寄せる「(株)スプレス」は、北海道を拠点に、地域の生産者と全国の消費者をつなぐ「地域商社」だ。主にふるさと納税の代行業務を行うが、そこにとどまらない。「なぜこの商品が生まれたのか」「誰のために、どんな想いで届けたいのか」を丁寧に聞き出し、それを写真や文章、価格設計に落とし込んでいる。
寡黙な漁師たちの営みに寄り添い、少ない言葉で語られる生産活動へのこだわりや想い、利尻島の風景、加工場の日常までを丁寧に言語化。その姿勢は、単なる支援者ではなく、“翻訳者”としてのそれに近い。
「自分ではうまく言えないけど、スプレスさんが伝えてくれる」
そう語る福士さんの言葉の奥には、商品を仲立ちとした“人への信頼”がある。
長年、市場や仲買いを相手にしてきた福士さんにとって、スプレスとの出会いは新たな挑戦だった。
「ふるさと納税をやりたいけど、自分ではできない」
「寄付者独りひとりの不在日も確認して、丁寧に対応してくれる」
スプレスがふるさと納税の窓口となり、個別の“寄付者対応”までを一手に引き受けてくれる。それにより、事業者は事業に専念できる。
「一度食べてくれれば逃げないから」
商品や活動への福士さんの“愛情”と“自信”を、スプレスが写真や文章で可視化し、消費者に届ける。
余裕のない漁期も支え合う福士水産とスプレスとの間には、伴走者としての信頼がある。
「楽しいですよ。これしかできないし、スタッフにも恵まれてるから」
帰ってきた島への想い、自然の厳しさを前にしてなおこの海と仕事を続けたいという強い意志が、ふるさと納税を通じて新たな展開をみせながら、「地元の価値」になる。

島で商いを続けるということ
利尻島で漁業を続けることには困難が多い。時化の多い冬の間は船を出せない。稚内への船が欠航すれば、何日も商品が足止めをくらう。それでも福士さんは、変わらず海へと向かう。加工場では、地元の女性たちが早朝から作業を開始する。冷たい水作業は決して楽ではないが、「ここで働けるのがありがたい」と笑う声が福士さんの背中を押してきた。
「漁を通じて、人の生活がつながっているんです」

福士さんにとって水産加工は、地域の仕事を生み出す責任でもある。どんなに厳しくても、値崩れしそうな商品は出さない。それは、島で商いを続けていくための、最低限の矜持でもある。
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