中間事業者取材記事

「ふるさと納税寄付額3.5億円が19億円へ」元楽天プレイヤーが没頭する飛騨の地域資源

楽天を退社した夫婦が立ち上げた株式会社ヒダカラは、「飛騨からあふれるタカラモノ」の発掘を楽しむユニークな会社。飛騨市、高山市、下呂市、大野郡白川村の三市一村を中心に、ふるさと納税運営代行やネット通販支援事業などを通して、ローカルならではの魅力を輝かせている。地場産品の生産・経営に苦戦する地域企業と事業再生に取り組み、事業の黒字化や売上アップを次々と達成。飛騨市のふるさと納税寄付金額は、3.5億円から19億円にまで増加した。「飛騨が好き!」と語るのは、代表の舩坂香菜子さん。舩坂さんが感じた飛騨地方の可能性、事業者と一緒に築いた成功体験を伺った。

地域をもっと面白くする、事業者との伴走

飛騨地域に根差し、「飛騨をもっとホットに」を掲げて事業を展開するヒダカラ。ふるさと納税運営委託、自治体のネットショップ支援、地域の企業のサポートなどを手がけながら、地場産品の価値を高めている。

「自治体さんをまたいで商品開発することもあります。たとえば飛騨のものに付加価値をつけるために、他の自治体から仕入れたものも組み合わせると、消費者により届きやすい商品ができたり。そういった事業で小売り事業もやっています」

ヒダカラの事業を通して、舩坂さんが目指すものを聞いてみた。

「ローカルな方々が、地域に誇りを持って新しいチャレンジをしていく地域を作りたいんです。田舎にこだわっているというよりは、その土地らしさや県民性みたいなものが残ると面白いなと感じています」

飛騨市の生産者さんとは、こんなチャレンジに取り組めたそう。

「地元に密着して食品を生産している事業者さんなのですが、思うように業績が伸びず、経営に苦戦していました。ですが、この事業者さんが伸びそうだなと思ったんです」

当時は、楽天から飛騨市役所へ出向していた舩坂さん。それまでの経験と分析から、事業者が生み出す商品に可能性を感じたという。

「ふるさと納税の業界の中で見たときに、商品のポテンシャルがあったのがひとつ。たとえば競合の自治体さんと比べると、特色があって質もいい。味も美味しいですし、製造量もありました」

舩坂さんはネットショップ運営支援の経験もあった。ネットショップを活用することで、その事業者の魅力を広めることができるのではと考えた。 「その生産者さんと二人三脚でずっとやってきてまして、ふるさと納税などネットショップを使って、直接お客さんに届ける方法を取りました。そうしたら通常では考えられないような、3年というスピードで業績が大幅回復。ピンチの状態から復活を遂げました。今は県規模のキャンペーンをやったり、クラウドファンディングで寄付が集まるようにもなったんです」

「大前提として事業者さんがめちゃくちゃいいものを作っていますし、こだわりがあるんです。たとえば製品化するまでのスピードが早いんですよ。だから(新鮮で)美味しい。そういう美味しさを言語化してわかりやすく伝えました。それ以上にブレークスルーしようと思ったら、新商品を一緒に開発することもあります」

コンサルタントのような仕事にも思えるが、ヒダカラが目指しているのは「あくまでも伴走」だと舩坂さんは語る。

「その事業者さんに走っていただくのはすごく大事ですね。(飛騨地方では)事業者の担当の方が売上を伸ばしたいと思っていて、本気で取り組もうとしています。事業者さんとヒダカラで、一緒に走っていく感覚です」

地域が持つ可能性を成功体験へ繋げる

舩坂さんは2020年の3月まで、楽天社員として飛騨市役所に出向。飛騨が好きだという舩坂さんは、2020年4月に夫婦でヒダカラを始動した。

「楽天に入社したのが2009年。そのときの楽天が『地方を元気に』とすごく言っていたんです。地方の商店街が楽天市場に出店して活性化した、みたいなストーリーもありました。私は奈良出身で地方に興味があったので、すごく惹かれて楽天に入ってみました」

楽天ではECコンサルタントとして、さまざまな地域の事業者を担当。商品開発やプロモーションの経験を積んできた。中でも、鹿児島での取り組みはターニングポイントのひとつだった。

「楽天に入って2年目から鹿児島に2年半ほどいたんです。事業者さん同士の繋がりができて、みなさんが変わっていったり、小さなお店の売上が上がって成功体験を得られた。こういう体験をもっと人と分かち合いたいと思ったんです」

一人で100社程を担当した時期もあり、一緒に取り組んできた事業者は累計500社にものぼるそう。そうして舩坂さんは楽天の社員として、飛騨市役所に出向することに。 「飛騨市は、すごくいいものを作ってる人が多いんですよ。ですがそれを言語化できていない。いいものを作っていると自覚していないんです。飛騨の人は『そんな大したことないから』と、自分たちが作ったものがネットで売れるなんて思っていない。そういうところが課題でもあるし、めちゃくちゃ魅力に思えたんですよね。伸びしろがすごくあります」

地域に飛び込んだからこそ感じた、飛騨の可能性。舩坂さんは地元の人とどんどんコミュニケーションを取っていった。

「飛騨の人たちに、『あなたの商品はいいから絶対売れる!』という話をしていったんです。やってみると、実際に成功するんですよね。それで成功したらどんどん自信が付いて、商品開発し始めたり、おじいちゃんがパソコン使い出したり」

一方で、出向というかたちで地域と触れ合うことへの限界も感じるように。 「自治体や民間企業にいると、事業者さんにそこまで踏み込めなかったり、スピード感を出し切れないところがあったんです。そこが自分の中で課題に感じられて、自分でやればもっとやりたいことができると考えて起業しました」

小さいからこそ面白い!飛騨地方のこれから

ヒダカラが事業を展開する三市一村は、それぞれの自治体で個性も特色もユニークだ。移住者でもある舩坂さんに、飛騨地方の魅力を尋ねてみた。

「住みやすいとか保育士さんがやさしいとか、いいところはいっぱいあるんですよ。三市一村に共通しているのは、自分の作るものにプライドを持っていること。飛騨の匠だったり、昔からものづくりの文化が続いていて、すごくいいものを作っています」 豊かな自然で育ったジューシーな桃「飛騨のたからもも」、身の引き締まった「飛騨のあばれ鮎」など、ヒダカラでは地場商品の魅力を理解しつつ、事業者と一緒にブラッシュアップに取り組んでいる。

実際に地域の人と触れ合いながら事業を展開していると、飛騨という地域だからこそ醸し出せる空気感も伝わってくるという。

「飛騨のような小さい地域だと、誰かひとりが頑張りだすと皆さんが触発されて頑張るんですよ。ヒダカラで大事にしているのが、事業者さんと自治体さんにパートナーとして一緒に取り組んでもらうことです。その媒介になるために、ヒダカラでは勉強会を毎年開催しています。そのときに言っているのが、『事業者の皆さんと自治体さんは運命共同体なので、皆さんの売り上げが上がったら自治体さんの寄付も上がるし、地元に還元できたり貢献できる』という話です」

勉強会では事業者に参加してもらえるように、チラシの作成やホームページ上での告知を実施。ひとつひとつの事業者に電話をかけて呼びかけるなど、あらゆる手法で人を呼び込んだという。

「勉強会には一番最初の頃から60社程が集まりました。参加してくれた理由を尋ねたら『興味本位』『楽天の人が来たから』って(笑)。『宇宙人に見えた』と言われたことも」

コツコツと丁寧に積み重ねてきたコミュニケーション。その成果は事業者の売り上げやふるさと納税の寄付金にも現れ出した。 「飛騨市のふるさと納税寄付額も3.5億円から19億円に伸びました。ですがヒダカラは基本的には伴走のスタンスなんですよね。事業者さんがどうしたいか、どのくらい売上を伸ばしたいか、この辺りをすごく大事にしています。コンサルとはちょっと違くて、『ネット販売に詳しい人が来て、すごく役立つ!』みたいな(笑)。週末の朝4時半から事業者さんと芋掘りに行っているスタッフもいます。こういうことは、地域が小さいからこそ面白いみたいなところもありますよね」

絶妙な距離感で、地域のプレーヤーが輝くために一緒にできることを探すのがヒダカラだ。

「たくさん商品が売れている事業さんもいれば、まだそうじゃない事業者さんもいます。ヒダカラで魅力の言語化ができていない事業者さんもいらっしゃるので、これからもエピソードをいっぱい作れるんだろうなと思っています」

ヒダカラの目に映る飛騨地方は、たくさんの可能性で輝いている。見る角度や行動をちょっと変えるだけで、地域に根付くローカルならではの魅力や価値がくっきりと見えてくるはず。これからますます輝きを増すであろう飛騨地方に目を向けてみてはいかがだろう。

地域は“薪”でもっと良くなると船坂さん。その理由を『読むふるさとチョイス』で語っています。
『読むふるさとチョイス』へ

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP