徳島県海部群海陽町にある海部高校は、郡内唯一の県立高校。少子化のため2004年に再編統合された海部高校は、今では県外からの入学者が絶えない人気校に。全国に海部高校の魅力をPRしてきたのが、一般社団法人Disportだ。教育の在り方を変えることを目指すのは、代表理事の高畑拓弥さん(写真右)と理事を務める中村悠さん(写真左)。数年後の未来を見据え、若者が地元をもっと好きになるような仕掛けを展開中だ。高畑さんと中村さんに、地元住民も巻き込んだ海部高校魅力化プロジェクト、「あまべ牡蠣」で目指す地域産業創生などを伺った。
セオリーを覆す牡蠣養殖で地域を元気に!
徳島県海陽町の「あまべ牡蠣」は、身の引き締まった食感と濃厚な味わいが魅力の名産品。あまべ牡蠣が育つのは海陽町の那佐湾だが、那佐湾は本来、牡蠣が育ちにくい地域だという。 「水産ベンチャーの株式会社リブルを設立し、牡蠣養殖をやらせてもらっています。普通は牡蠣といえば瀬戸内海や東北で、こんなに温かく綺麗な海の地域では作れないんです。僕たちは海陽町でも牡蠣を作れる手法を確立しました」(高畑さん)
スマート水産業のテクノロジーを駆使しながら、シーズン通してあまべ牡蠣を生産。取り組みは評価され、農林水産省と内閣官房が主催する「第9回ディスカバー農山漁村(むら)の宝」で特別賞(スマート水産業賞)を受賞した。 「現在は香川や愛知、九州にスタッフが行き、『海陽町でもできたんだから、あなたたちの地域でもできる』と、テクノロジーと強い種苗を持って養殖全国沿岸部に展開をしています。大きな牡蠣産業にするというよりは、この技術を同じ課題で困っている地域に展開していくビジネスモデルを展開しようとしています」(高畑さん)
地域を盛り上げる名産品を生み出したい、という自治体は少なくない。というのも、名産品ができることで地域の可能性も広がるからだ。
「教育に繋がっていくんです。仕事がないから、人は地域の外へ出て行ってしまいます。仕事ができると、ここに残りたいと思ってもらえるようになるんです」(高畑さん)
牡蠣の養殖事業でも実際に、地元住民を採用して地域雇用を実現。さらに子どもたちにも目を向けて、教育事業の活性化も重視している。
「インドネシアに駐在していたことがあったのですが、インドネシアで一番衝撃的だったのが若者の考え方でした。インドネシアの若者たちの将来の夢ランキング1位が起業家だったんですよ。自分たちの国で産業をしようと思ったときに、教育の在り方がそもそも違うように感じられました。日本の考え方は、いい学歴・いい企業に入ればもう安泰。けど実は安泰ではなく、日本の経済停滞は世界的に見ても顕著です。そういうところから教育を変えていけたら、社会で活躍する人材を育てられるんじゃないかと考えたんです」(高畑さん)
日本産業の空洞化を地方の力で変えたい
2017年から海陽町でふるさと納税事業を受託してきたDisport。中学校の同級生だという高畑さんと中村さんだが、どんな巡り合わせによって海陽町にたどり着いたのだろう。
「僕は神奈川出身で、途上国支援がしたくて東京の商社に入社したんです。でも途上国はどんどん発展していて、日本が取り残されていることに気付きました。商社に勤めて3年位したときにインドネシアに駐在し、外から見た日本の空洞化に危機感を覚えたんです。特に教育と一次産業でした。そうしたことを誰が支えてるんだろうと考えたら、地方だと思ったんです。ちょうど地方創生という言葉が出てきた時期で、地方に行こうと決めました」(高畑さん)
通信インフラの会社に就職していた中村さんも、時期は重ならなかったがインドネシア駐在へ。
「インドネシアの熱量や現地の人達が見ているビジョンを感じました。日本に帰ってきてみると、インドネシアとの温度差のようなモヤモヤしたものを抱えてしまい、高畑と話をするようになったんです」(中村さん)
地方への関心が高まる中、高畑さんは「地方創生をやりたい!」という熱意を言葉にすることが増えていった。
「東京で海陽町のサテライトオフィスに出展している企業さんにたまたま出会って、『海陽町という町がすごく面白いから行ってみれば?』と言われました。視察をしてもしょうがないから『引っ越します!』と言って会社を辞めて、海陽町に飛び込んできたのが7年前です」(高畑さん)
「私はどこででも生きていけるという自信があったので(笑)、家族もいたんですけど会社を辞めて海陽町に来ました」(中村さん)
熱意だけで飛び込んだ状態ではあったが、海陽町の人々はあたたかく受け入れてくれた。
「地域の産業を盛り上げたいという熱意を伝えたところ、ふるさと納税の代行業務を任せていただけるようになり、都市部の目線でこの地域の魅力を発信することに奔走しました。」(高畑さん)
地域密着型探究学習で県立高校を盛り上げる
Disportのユニークな事業のひとつが「海部高校魅力化プロジェクト」だ。徳島県立海部高校は、2004年に日和佐高校、海南高校、宍喰商業高校の3校が再編統合して誕生した学校だ。地域の少子化の影響もあり、子どもたちが地域の外に出て行ってしまうという課題も浮かんでいた。
「海陽町ではふるさと納税で集めた基金を使って県立高校の支援まで実施しているんです」(高畑さん)
Disportは、海部高校魅力化コーディネーターとして県内外への広報PR、地域探究学習プログラムの設計、学びのプログラムの企画などを担当。
「『地域みらい留学』という、都道府県の枠を超えて地域の高校に入学する制度があるのを知って、それを海陽町でも実装できたら本望だと思いました。僕らは海部高校の説明会を、全国を駆け回って実施し、生徒の受け入れをしています」(高畑さん)
生まれ育った地域の高校へ進学するのではなく、ローカルな新天地で高校生活を送ることで、子どもたちの可能性が広がるという。
「”地元の高校に進んだら、それまでと同じメンバーとしかつるめない。”当時地元の中学生向けにアンケートを取った際に聞こえてきた言葉でした。それなら全国から生徒が集まる高校にすれば、多様性の欠如を逆転させることができると思い、取り組みを始めました。」(高畑さん)
実際にプロジェクトが始まってから、海部高校には県外からの入学者が増えている。
「以前だったら県外生はいても1人程でしたが。それが今では毎年10人~15人位が県外から来るようになりました。東京や大阪、長野、熊本、岩手などさまざまですね。全生徒数が300人位の学校で、10%以上が県外生です。元々海部高校には県内遠方の生徒を受け入れるための寮があったのですが、魅力化プロジェクトを始めた結果、すぐさま寮はキャパオーバーに。住環境は最も重要であるため、様々な方に働きかけて、第二寮が新設されました。少子化が著しい地域の県立高校としては、奇跡の寮だと言われております。ちなみにその第二寮も定員充足してしまい、もう一度奇跡を起こさなくてはならない嬉しい悲鳴を上げております(笑)。」(高畑さん)
さまざまな個性を持った生徒が集まり、近年はバスケットボール部が全国大会出場の切符を手にした。進学では国立大や私立大など選択肢が広く、専門学校でスキルを磨こうとする学生も。就職率は100%という実績が海部高校で出ている。
多様な成果が出ている海部高校だが、「せっかく海部高校に来てるのに、学校の中だけで楽しむのはもったいない」と高畑さん。Disportでは、地域の魅力を活かした探究学習プログラムの企画・運営にも力を入れている。
「たとえば海陽町には、『みつぐるま』というお酒を作っている会社があります。みつぐるまのロゴを作っているのは、東京オリンピックのエンブレムを作成した野老朝雄さん。みつぐるま自体が30代の方が起こした新しい会社です。そうした年齢の近い世代で、地域課題・社会課題に本気で取り組む大人がいることは、探究学習のうってつけの素材だと思います。」(高畑さん)
SDGsを扱った探究学習では、地域の漁業との関連性を感じてもらえるように工夫を凝らした。
「SDGsといっても、生徒たちからすると『何だろう』『遠すぎる』となっちゃうんですよね。ですからSDGsを地元に落とし込んでみる。たとえば海陽町では魚がいなくなってしまうから、これからは育てる時代になっていく。でも世界はすでに育てる漁業に進んでいるから、日本はこれから追いつかなきゃいけない。こういう話をすると、生徒も『海の豊さを守るって、そういうことか!』と感じてくれるんです。SDGs×地元企業のかたちで、(教育と)事業者を繋ぐコーディネーションをしています」(高畑さん)
探究学習の強みは、生徒が自分で課題を設定してリサーチや分析を進めていく点だ。
「答えがあることを学んできた人材よりも、探究学習のように答えがないものを作ってきた人材の方が強くなるでしょうし、企業もそういう人材を採用したいですよね。地域には探究素材がたくさんあるし、地域の皆さんも助けてくれる。たとえば地域の産業について知りたいと言うと、喜んで様々な場所に連れて行ってくれます。探究学習において、地方は贅沢な環境だと言えるんです」(高畑さん)
地域は“教育の種まき”でもっと良くなると高畑さん。その理由を『読むふるさとチョイス』で語っています。
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