一般社団法人nossonは、高知県日高村に設立された日高村初の地域商社。代表理事の小野加央里さん(写真左)と理事の前田梓さん(写真中央)は、同じ志を持つ仲間だ。2人は元々、地域おこし協力隊として日高村に赴任。宿泊施設のなかった日高村にゲストハウス『eat&stay とまとと』を作り、今では関係人口創出を目指すWebサイト『いきつけいなか』やコミュニティ作りなどを運営している。地域の外から人を呼び込む取り組み、特産品を活用したプロジェクトなど、地域の課題と向き合うnossonの試行錯誤を伺った。
地域づくりの広がりはグラデーションで
高知県日高村は水質日本一を誇る仁淀川、ハイキングにぴったりの大滝山など、自然豊かでのどかな村。ゆっくり見て周りたいところだが、観光者が滞在するような宿泊施設がなかったという。そんな日高村初のゲストハウスとなったのが『eat&stay とまとと』だ。
「nossonは、とまととの企画をしています。日高村に宿が欲しいと思って、地域おこし協力隊時代に企画したんです」(小野さん)
ちょっと歩けば、神秘的な仁淀川ブルーを眺められる絶好の立地。お腹が空いたら、一階のとまとづくしカフェで、地元産トマトを惜しみなく使用した食事・ドリンクも味わえる。
「宿のほかに、『いきつけいなか』という地域のお仕事・お手伝い紹介サイトもリリースしました。移住や地域おこし協力隊を検討している人がメインの対象で、『いきつけられる田舎を作る』ことを目指しています」(小野さん)
いきつけいなかでは、日高村で畑仕事や薪仕事などさまざまな仕事を探すことができる。一週間程度の滞在でできる仕事もあれば、移住を想定した仕事まで幅広く紹介されている。
「日高村に興味を抱いた人が気軽に参加できるイベントも実施しています。もっと地域の話を聞きたいなら月1開催の『ホンネ居酒屋』というオンライン会もあるんですよ。受け皿を幅広く設けて、グラデーションで関わるきっかけを作りたいんです」(小野さん)
いきつけいなかのサービスには、地域の中と外にどんな相乗効果が期待できるのだろう。
「移住希望者へのPRであったり、関係人口創出につながります。nossonではふるさと納税の事業者支援もしているので、事業者のことを好きになってもらいたいですね」(小野さん)
地域おこし協力隊から地域商社設立へ
地域おこし協力隊として日高村に赴任していた小野さんと前田さん。そんな2人が出会い、お互いの力を合わせて誕生したのがnossonだ。小野さんが日高村に来たのは、ボランティアがきっかけだったそう。
「東京で広告業のディレクターをしていたのですが、震災をきっかけに全国でボランティアをするようになりました。初めて日高村に来たのが2016年。日高村のことがすごく好きになりましたし、『NPO法人 日高わのわ会』の活動と事務局長の安岡さんの活動が素晴らしくて。とても感銘を受けて、一緒に活動してみたいという思いが生まれました」(小野さん)
そんなときに総務省の地域おこし協力隊の存在を知り、日高村への移住を決意。より深く地域に関わる生き方を選んだ。その約1年後に日高村にやってきたのが前田さんだった。
「私は奈良出身なのですが、旦那が高知市内出身なんです。結婚を機に夫婦2人とも仕事を辞めて高知に移住する話になったとき、たまたま日高村の地域おこし協力隊の募集があって、面白そうで来てみました。前職ではECサイトの運営をしていたので、ふるさと納税担当の協力隊として入ったんです。ですが当時の日高村でふるさと納税に出品している事業者さんは、10もいかないほどで……」(前田さん)
事業者のもとへ出向き、商品を撮影したり魅力を探すことに力を入れた前田さん。今では日高村のふるさと納税事業者は増加傾向にあり、寄付金額も増えてきた。小野さんも、ボランティア時代に感じていた「日高村にこれがあったらいいのに」をかたちにすることにチャレンジした。
「地域おこし協力隊になる前は、東京で仕事をしながら、ボランティアのために月1回程日高村に来ていたんです。仕事はパソコンがあればできたので、今でいうワーケーションみたいなものですね。でも日高村には泊まれる場所がなかったんですよ。それでゲストハウスの企画を作ってみました。NPO法人日高わのわ会の安岡さんと一緒にビジネスコンテストに出したら入選。それをきっかけに役場に提案し、今に至ります」(小野さん)
とまとと立ち上げ時は、NPO法人日高わのわ会、小野さんや前田さん、地域の人々が連携。それからも日高村を盛り上げるために、さまざまな取り組みを続けてきた。ただし地域おこし協力隊の活動期間には上限があり、小野さんの活動期間終了の時期が近づいていた。
「小野が地域おこし協力隊を卒業するタイミングで、地域商社を立ち上げたらどうか、という話が出てきたんです。当時は、ふるさと納税で事業者の開拓などをしていたんですけど、配送や寄付者への対応は県外の中間事業者に委託していました」(前田さん)
「これは、せっかくいただいた寄付金を県外に出していたということ。『それはもったいないよね』『地域でお金を回したいよね』という話をずっとしていたので、ふるさと納税事業と小野の事業を合体させて、日高村で地域商社を立ち上げました」(前田さん)
地域が自力で面白くなるための関係人口創出
2020年10月、nossonは日高村初となる地域商社として、その活動をスタートさせた。内閣府による地域商社事業とは、地域ならではの特産品やサービスに価値を見出し、収益力の向上や販路拡大などを担う、地域に根差した商社事業の設立・普及を促す政策。
地域商社が得た知見や収益は、地域の事業者に還元し、地方創生のエネルギーを強めることを目指している。近年は各地方で続々と地域商社が立ち上がっているが、nossonが思う地域商社の意義とは。
「地域商社は、地域に何かしらを還元して良くしていこうという気持ちが強いと思います。地域の事業者さん一つひとつを見て、中に入り込みながら事業者さんの魅力を引き出していくのが地域商社。地元愛が強いイメージです」(前田さん) 現在、nossonには2人のほかに地域おこし協力隊の若者も在籍。小野さんと前田さんが協力隊に在籍していた頃と同じように、ワイワイ楽しく地域の事業者と連携しながら、日高村を盛り上げる取り組みに邁進している。
一方で、自分たちと地域のみで地方創生を継続していくことには限界を感じているという。
「私たちはnossonを参加形型地域商社と呼んでいて、ふるさと納税と関係人口創出の相乗効果を生み出す事業を目指しています。皆さんにお力をお借りして地域をより良くしていきたいんです。そのために、地域の中と外を繋ぐコミュニティ作りとして『スーパー関係人口創出メンター制度』を始めました」(小野さん)
2023年に始動した「スーパー関係人口創出メンター制度(通称:スパ関制度)」。地域の外から高度な専門スキルを持ったプロフェッショナル人材を呼び込み、地域の人材にとってのメンターとなってもらう制度だ。日高村で活動する地域おこし協力隊員が、起業や事業にチャレンジする際に、頼れる存在となることが期待される。
「たとえばマーケティングやコミュニティ作りのスキルってあまり地域にはない。外からプロフェッショナルな方をメンターとして呼び、地域課題を解決したい人たちの先生になってもらいます」(小野さん) スパ関制度ではnossonがメンターを選定し、合同ワークショップやグループチャットを開催し、スキルを学ぶ機会を提供。地域内でのビジネスの成功確率を高めつつ、地域の枠を超えたネットワークの拡大も目指す。
「コミュニティという枠で上も下も何もなく、お互いが友達同志のような学び合いをしたり、繋がりを作っていく。応援したくなる仲間が見つかるような、中と外を繋ぐコミュニティを作ろうとしています」(小野さん)
現在メンターとして参画しているのは、Still Day One合同会社代表社員・パラレルマーケターの小島英揮さん。コミュニティマーケティングなどについて、知見やアドバイスを与えてくれるプロフェッショナルだ。ブランディングやファンづくりに関しては、春日井製菓販売株式会社 おかしな実験室室長の原智彦さんがメンターになってくれた。
「地域の外の人に参加していただいて、助けてもらいながら一緒に地域づくりの活動をしていく。それが関係人口を増やすことに繋がると考えています」(小野さん)
地域は“自分ごと化”でもっと良くなると小野さん。その理由を『読むふるさとチョイス』で語っています。
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