元料理人の笹川千尋さんが創設した株式会社さちふるは、福井県を拠点にふるさと納税の業務代行や自治体支援を行なう地域商社だ。料理人時代に鍛えた目利きの経験などを活かし、地域で生まれる名品を発掘。ECサイトの運営・管理では全返礼品の全レビューにまで対応する徹底ぶり。「ふるさと納税が趣味」と語る代表の笹川さんに、制度を活用した地域活性、キャリアチェンジのエピソードなどを語ってもらった。
料理の仕入れで培った“良いもの”を見抜く目
「僕にとってのふるさと納税の始まりは、提供事業者側だったんです」と語る笹川さん。福井県に移住して地域商社さちふるを創設する以前は、独立を夢見る料理人だった。
「神奈川出身で、2016年に福井県に来るまでは佐賀県の温泉地でホテルの料理人をしていました。ふるさと納税の仕事をしている時間よりも、料理人だった時間の方が長いです。自分はずっと料理をしていくもんだと思っていました」
大規模ホテルのセントラルキッチンは料理人も大所帯。チームプレイで料理と日々格闘していたそう。
「コックさんが15人位いるのですが、仕事は料理を作るだけじゃないんですよ。仕入れやシフト作り、購買、予算確保、メニュー周知など細かい作業がたくさんあるんです。でもみんなやりたいのは料理なんです。そんな中、僕は総料理長から『お前は素材の味を殺す。』と言われました(笑)」
ショッキングな評価にも感じられるが、笹川さんは褒め言葉として受け止めた。
「総料理長から『全国の美味しいものを集めてこい』と言われたんです。南は沖縄から北は北海道まで、全国の漁師さんや野菜の生産者さんと直に繋がって、いろいろなものを仕入れるようになり、料理を作るより仕入れや事業者との交渉をしている方が楽しいと感じるようになりました。」
仕入れの経験を積む中、勤務先のホテルと自治体がふるさと納税事業で協力することに。
「ジビエを一緒にブランド化することになり、自治体さんからホテルメイドの返礼品を出してほしいと話がありました。そのとき初めて、ふるさと納税について調べたんです。すごい制度だと思うと同時に、普段の仕入れを通して地域のものを知っているんだから、(良いものが)できると感じました」
返礼品の内容や梱包に至るまで、企画にこだわり抜いた笹川さん。さまざまな部門を持つホテルの強みを活かし、料理の写真撮影やページデザインも品質を高めたという。
「返礼品は佐賀牛でしたし、画像なども良いものを用意したこともあって、寄附金額は事業者単体で一億円位になりました」 佐賀県でふるさと納税が持つポテンシャルと手応えを実感したが、縁があり福井県へ引っ越すことに。
福井の埋もれた名品にスポットライトを
福井県にやってきた笹川さんは、地酒やセイコガニや甘エビなど、地域の名産品の虜になった。同時に、こんなに魅力的な名産品があるのに全国的に知られていないことに疑問を感じたそう。
「福井県坂井市のふるさと納税返礼品の立ち上げは、小玉さんという市役所の職員さんが中心になって始まったのですが、ちょうど僕が引っ越してきたタイミングと近くて。僕は福井に越した際にお世話になった方が、坂井市で事業をされていたので、、坂井市がふるさと納税返礼品を始めると知って、『僕がアドバイスさせていただきます』と、お声がけさせていただいたのがきっかけで、市役所に連絡しました。それから坂井市とは、ふるさと納税でご縁がありました。」
ふるさと納税では食品を扱うことも多く、料理人時代に磨いた目利きが役に立つことも。ただし笹川さんが心がけているのは、あくまで地域の事業者や寄附者が喜ぶこと。
「あくまでも(返礼品が魅力的かどうかを)判断をするのは消費者さん。僕の中ではフィルターをかけずに、事業者さんのこだわりをそのまんま伝えるようにしています、また各自治体の弱点を分析して総合して何をするのが良いかを判断してます。敦賀では顧客対応・越前町では越前ガニを中心としたシティプロモーション、自治体の数だけ戦略は無限にあると思います
そうして自治体のふるさと納税事業のサポートをしながら、福井には良いものがたくさんあることをますます実感。
「当時、会社に(ふるさと納税事業支援)部門を作ってもらって仕事をしていたのですが、最終的には独立を考えるようになり。、別の自治体からも声がかかったタイミングで独立し、さちふるを作りました」
地域のファンを増やすためにスタッフも成長
地域に魅力あふれる名産品がある一方で、PRに課題を感じていた笹川さん。2020年8月にさちふるを起業し、ふるさと納税事業に全委託で対応。全ての返礼品について、細やかに目を配っているそう。
「敦賀市は北前船を中心とした海産物の「加工」をメインに行う地域。エビやカニの加工をベースとして、生産力があってたくさん捌けるのが強みなのですが、顧客対応は弱かったんです。(受託してからは)僕もコールセンターで電話対応したり、お客さんのメール対応をさせてもらいました。すると商品レビューがかなり改善しました。元々の商品力に対応のサービスが追いついてきたのかなと思いました」
生の顧客対応を通して、地域を知ってもらう意義も改めて痛感した。
「敦賀の読み方を覚えてもらうところから始めたんですよね。『あつがし』と呼ばれることが多くて……(笑)。全商品ページに『つるが』という言葉を入れてみたり。敦賀市に何度も寄附してくれるファンを作れるように力を入れました」
敦賀市を応援する寄附者は増え続け、予想を大きく上回る程に。
「初年度は5人位で対応していました。前年度の寄附金額が約6億円で『今年は10億円いけそうだね』と話していたんですけど、どんどん増えて34億円を超えたんです。当時は電話対応がパンクしたことも」
今では従業員も20名を超え、協力しながらスキルアップを目指している。地域への理解や親しみも深めながら、さちふるはスタッフ一丸で成長中なのだ。
「採用で一番ポイントにしているのが、優しい人であること。業務のためにパソコンを使えるとかの条件はありますけど、良い人間関係だと良い仕事ができる。お客様とも良い関係を作っていきたいですし、お互いを尊重して一緒に作り上げていくことを目指しています。心優しくお互いを尊重する、愛和ですね」
日本各地には、魅力ある事業者や名産品がまだまだ埋もれているはず。魅力を掘り出したり価値を磨く人の存在、事業者のこだわりを伝える力が、さちふるのように地域をもっと明るくするのだろう。
地域は“愛和”でもっと良くなる、という笹川さん。その理由を『読むふるさとチョイス』で語っている。
『読むふるさとチョイス』へ
コメント