沖縄県は伝統にグルメ、観光など特色豊かな地域だが、意外にもふるさと納税の受入額や受入件数を全国的に見ると突出して高くはない。そんな沖縄県でふるさと納税を活用した地域貢献を目指すのが、株式会社ラクセスイノベーション。Webサイト制作やシステム開発などITにも強い同社は、自治体や事業者に働きかけ、沖縄の魅力を全国に伝える取り組みを続けてきた。同社の代表取締役社長・赤嶺允也さんと執行役員兼営業部長・新垣司さんに、大宜味村のマンゴーから始まった支援事業の軌跡、寄付が地域貢献に繋がった手応えなどを伺った。
出発点はマンゴーの品質基準作りと信頼獲得
ラクセスイノベーションが沖縄県内のふるさと納税支援事業を始めたのは、2015年頃。その年に支援した自治体の寄付金額は合計3000万円に到達。翌年は9自治体と契約を結び、合計5億5000万円まで寄付額を伸ばすことができた。
「現在、ラクセスで受け持つ沖縄県内自治体での寄付金額は約50億円に伸びています」と赤嶺さん。ふるさと納税活用の大きなきっかけとなった返礼品が、大宜味村のマンゴーだ。
「2015年に支援事業をスタートした当時、大宜味村の寄付は数える程度しかなかったんです。全国にアピールしようと考えたら、シークワーサーかマンゴーでした」(赤嶺さん)
「大宜味村はシークワーサーの産地なんですけど、当時はもうシークワーサーの熱が薄れてきていました。マンゴー農家さんもいらっしゃるので、返礼品はマンゴーに注力しようと思ったんです。ところが地域の農家さんがバラバラだったんですよね」(新垣さん)
大宜味村の名産品としてマンゴーを浸透させるためには、寄付に見合う品質、寄付者の手元に届いたときの満足感が欠かせない。
「マンゴーの品質基準がバラバラではマズイと考え、自治体の農林水産課にふるさと納税協議会を作ってもらい、農家さんへの説明会を開催しました。まず農家さんを1軒1軒回って(説明会に呼び)、返礼品として出すマンゴーの基準を打ち出しながら、ふるさと納税出品の募集をかけました」(新垣さん)
ふるさと納税制度を知らない農家も多い中、丁寧なサポートで理解を促し、マンゴーを返礼品として出品。すると全国から瞬く間にリアクションが返ってきた。
「いただいた在庫が2週間で売り切れたとき、農家の皆さんも『本当か!』とびっくりしていて。そこから追加注文がどんどん入ってきたのを覚えています」(新垣さん)
協議会や基準などの仕組み作りをしたことで、事業者側にも変化が見られたそう。 「最初は500セットしか出せませんという事業者さんも、今では3000セット出せるように伸びました。スタート時はやっぱり、私たちが事業者さんからの信用をまだ得られていなかったんですよね。それが一番苦しかったです」(新垣さん)
地域の代表者として事業者に意識改革を
大宜味村のふるさと納税支援事業受託をきっかけに、県内で契約がどんどん増えていったラクセスイノベーション。地域で信頼を得るために、どのように事業を進めていったのだろう。
「もう全てをやっていますね。事業者さんの訪問・説明、契約、返礼品の配送管理、証明書の作成も受託しています」(新垣さん)
「当初は私たちも自治体さんも制度のことがわからず、まずはExcelを使ったり紙を印刷してアナログで進めていました。自治体が少なかったからそれで大丈夫だったのですが、契約が増えるとそうはいかなくて… 。立ち上げ時のスタッフは5人でしたが、書類作成業務をしていたら皆の指紋がなくなったんですよ(笑)。それでいろいろシステム化を進めました」(赤嶺さん)
同社はITに強いという特徴を持ち、市町村ごとにカスタムできる「ふるさと納税管理システム」を開発。事業の関連書類や返礼品発送状況を一元管理可能に。システム化を進めつつ、事業者と顔が見える距離感での支援を続け、評価は徐々に高まっていった。
「近隣の自治体さんや事業者さんって、繋がっているんですよね。紹介してもらってさらに呼ばれて、という形で契約が増えていきました」(新垣さん)
現在は約30名のチームで県内の自治体と事業者を支援。ふるさと納税制度への理解促進はまだまだ必要だと実感しているそう。
「基準に達していないマンゴーを出荷してしまう農家さんもいるんです。クレームが来て対応するため、農家さんも二重で損をしてしまいます。弊社では基準のクオリティチェックがあって、さらに寄付者さんにも手元に返礼品が届いたら写真を撮っていただくようにしています。クレームでは写真も送ってもらい、私たちで確認します。クレームの内容を確認した上で、農家さんに改めて返礼品を送り直してもらうことも」(新垣さん)
「通販とは違うということを、事業者さんに理解してもらわないといけません。特産品ですので、地域の代表であることを意識してほしいんです。品質を保てるように、こちらでもチェックを継続しています」(赤嶺さん)
ラクセスイノベーションが考える、地域の貢献に繋がる支援とは。
「地域でふるさと納税の勉強会を頻繁にやっていかなければいけないと考えています。農業に限らず、事業者さん同士や自治体さんと制度について考えて話し合う場を拡張したいですね。自分たちで動かないと、良いものは出てこないと思うんです。私たちも返礼品を作る動きをしてはいますが、一つの企業と数百の事業者であれば、数百が動いた方が早いですし、良いものを作れるはず」(新垣さん)
今後は自治体とクラウドファンディングなどのプラットフォームを活用しながら、事業者の商品開発促進を計画中。官民一体で沖縄の魅力を磨き、全国に伝える方法を模索している段階だ。
沖縄が持つ独自性と観光関連返礼品の強み
マンゴーやシークワーサー、サトウキビなど、沖縄の特産品は非常に多彩で全国的な知名度もある。ところが、返礼品で人気が高いのは物品ではないという。
「弊社が受託している恩納村でいうと、観光の返礼品がすごいです。特にコロナが落ち着いてから反応が大きく、恩納村の寄付は約9.5割が観光からになっています」(赤嶺さん)
ふるさと納税では宿やリゾートの宿泊利用券も出品されている。届くのを待つだけでなく、寄付したい地域を訪れるきっかけにもなっているのだ。
「闘牛だったり地元のローカルな遊びは、まだ観光客に伝わっていないなと思うんです。ローカルな楽しみを伝えて体験してくれたら、もっとふるさと納税に繋がっていきますよね」(新垣さん)
「ふるさと納税の寄付者が沖縄に来て食事するじゃないですか。県内で食事したものは返礼品にも出ているので、家に帰ってからまた購入することができます。口コミでさらに盛り上がれば、ふるさと納税以上の広がりができると考えています」(赤嶺さん)
地域を訪れ体験したからこそ味わえる、沖縄の文化や伝統。地元民でも驚くような魅力はまだまだたくさんあるらしい。
「たとえば沖縄市の空港通りは昼と夜じゃ全く顔が違います。夜になると基地から外国人の方が流れ出て、あの一帯がバーになったり。以前、沖縄観光のナイトツアーを体験したんですけど、地元の僕でもカルチャーショックでした。沖縄にはどの地方にも眠っている魅力があるはずなので、それを掘り起こしていかないと。弊社がナイトツアーを作ったら面白いかも(笑)」(新垣さん)
沖縄のふるさと納税事業の中でも、観光資源は大きな強み。ふるさと納税をきっかけに、ディープな沖縄を堪能してみるのもおすすめだ。
地域は“官民一体”でもっと良くなる、という新垣さん。その理由を『読むふるさとチョイス』で語った。
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