中間事業者取材記事

「あなたと話したい。そういわれ続けたい」北海道に喜び・利益をもたらす挑戦

札幌に拠点を置く株式会社スプレスは、自治体からも事業者からも愛される地域商社。時には、自治体の枠組みを飛び越えて返礼品を開発。事業者と事業者を結びつけ、付加価値の高い返礼品開発などを手がけている。そんなスプレスの強みのひとつが、みんなをわくわくさせること。地域に飛び込み、そこにしかない特色にスポットライトを当て、地域を活性化していく。スプレス代表取締役の加納綾さんに、中間事業者としての心意気や地域商社の面白みを語っていただいた。

地域の感動を寄付者に届ける工夫づくり

スプレスの原動力は「自治体さんや寄付者さんが喜ぶこと」だと、加納さんが朗らかに語る。中間事業者の業務は多岐に渡るが、自治体がふるさと納税を円滑に回せるよう工夫を凝らしている。

「私は人と話すことが好きで、必ず現地を訪れ、事業者の方々と直接対話を重ねます。現場を実際に見て回ることで感じることは盛りだくさんで、その過程自体がとても楽しいです。そのようにして出会った事業者の方々や、地域そのもののストーリーを商品に反映させて提供していきたいと考えています。」

加納さんは各事業者を“個”として見るよりは、地域に根ざす仲間たちと見ているのかもしれない。「知内町のニラは特産品でありながら、単体では返礼品としての取り扱いが難しいという課題がありました。そこで、ニラを使った焼き肉のたれと肉製品の事業者を組み合わせ、新しい商品を開発しました。このたれには、通常は捨てられてしまうニラの茎が利用されており、裏側には再利用の素敵なストーリーがあります。スプレスは販売者として、在庫管理、パッケージのリニューアル、商品の加工などを行っています」

スプレスが間に入ることで、地域の事業者が有機的につながっていく。

「スプレスが産業間のつながりを作るハブとして機能することで、商品の多様性が増し、一つの産業だけに頼らない仕組みを構築することが可能になります。それによって、地域内の課題解決へと繋がっています」

スプレスの従業員数はおよそ30人。デザイン、配送、オペレーション兼コールセンターの三つのセクションが中心となり、ふるさと納税事業支援を回している。

「私たちのデザインは、ウェブサイトのレイアウトから商品パッケージに至るまで全てをカバーしています。配送用のダンボールや寄付受領証も、丁寧にデザインし製作しています。さらに、返礼品がどのように段ボールに収められるかも重要なデザイン要素だと考えています。寄付者がパッケージを開けた瞬間もうれしくなる!といいですよね」

お土産屋の店長から地域商社起業へ

自ら地域に足を運び、「何が売れるか」を見抜く加納さん。そうしたスキルはどのように培われたのだろう。 「北海道出身で、全道ほぼくまなく過ごしたことがあるんですよ。黒松内町で生まれてから八雲町へ行き、父の仕事の転勤で網走、美唄、伊達に引っ越し。中学校の2年間は茨城県の筑波に行きましたが、高校はまた北海道の伊達へ。高校と就職は室蘭、結婚してからは登別で、夫の転勤で中標津、北広島と来て、現在に至ります」

スプレス設立前は3人のお子さんを育てながら、新千歳空港のお土産屋で店長を勤めたという。

「そのお土産店は大手旅行会社と取引がありました。その会社がふるさと納税事業に参入した際に、返礼品事業者として私も営業活動に参加する機会を得られました」

そのとき、大手企業が地域の事業者とコミュニケーションを取る上での難しさを感じたそう。

「当時、ふるさと納税が始まったばかりで、主な業務は返礼品の掲載でした。返礼品をプラットフォームに掲載するだけで寄付が集まるという時代でしたが、地方の方々にはこのプロセスが難しいように思いました。特に、Excelの操作に抵抗を感じる方が多く、身近に指導してくれる人もおらず、資料だけを受け取ってどう進めれば良いか戸惑う事業者の方々を多く見かけました」

「それなら私が事業者さんと話しながら、書類の書き方や写真の準備を手伝だったら事業者さんは楽になるかもしれないと思ったんです。仕事を終えて帰宅した農家さんたちにとっては、疲れている上にパソコンを立ち上げて、新しいシステムに慣れるのも、Excelに細かい情報を入力するのも、本当に大変なんです。『FAXならいつも使ってるから大丈夫』って聞いたとき、ひらめいたんです。私がそのシステムの情報をFAX用紙に移して、そこからFAXで送るサポートを始めたんですよ」

空港のお土産屋としては前例のないチャレンジだったが、新規事業としてスタートすることができた。

「一人新規事業部です(笑)。それまではバイヤー業務も手掛けていたし、商品開発も、お土産屋さんでの仕事に近い。事業者さんたちとの出会いはいつも新鮮で、その取り組みを楽しくFacebookでシェアしていました。私のようなサポートが必要な事業者さんも多く、自治体の方々からも『加納さんを呼んで!』って声がかかるようになったんです」

ふるさと納税事業支援のやりがいや面白みを感じていたが、M&Aでお土産屋さんの代表が変わることに。

「新しい代表の方針で、『ふるさと納税事業はやらない』と聞いて愕然としました。事業を譲渡してもらって退職を決意しました。めちゃくちゃ後ろ向きな気持ちで『起業したい』と友人に電話したら『何グズグズしてるんだ。チャンスだと思え!』と言われて(笑)。そこで気持ちを切り替えてからは早かったですね」

2016年8月に退職を決意し、同年10月3日にスプレスを設立。地域に寄り添う中間業者として、新しいスタートを切った。

地域の枠組みを超えたふるさと納税事業支援

「利尻富士町は、利尻島にある自治体の一つです。この町でかつて作られていた日本酒を復刻させることになりました。町長から、『半世紀前にこの町には酒蔵があり、その記憶を持つ人も少なくなってきた。その昔のお酒を再び蘇らせて、町の人々や観光客に楽しんでもらえる、町のシンボル的なお酒にしたい』いう熱い想いを伺い、この復刻プロジェクトを担うことを決めました。」

利尻酒造株式会社は日本最北の酒蔵だった。かつては利尻富士町の名水を使用した純米吟醸「利尻富士 栄泉」が生産されていたが、その歴史は昭和48年に途切れたという。栄泉を復刻させることを決意してからの加納さんは、スプレスのスタッフや町の人も驚くほどスピーディーだった。

「今はこの取り組みももう3年目になりました。今では、町の人たちが利尻富士栄泉をお持たせとして選んだり、観光客が旅館や居酒屋でこのお酒を楽しんでくれるようになりました。最近では、新酒のお披露目会を開催したんです。すると、町の議員さんが「高校生の頃、瓶詰めのアルバイトをしていたんだ」と懐かしい話をしながらお酒を楽しんでくれました。それがとても嬉しかったですね。」

利尻富士栄泉は現在、北海道幌延町とコラボレーションも展開中。幌延町産ミズナラ樽を使用し、ジャパニーズオークが持つ香味が加わった「木樽熟成 利尻富士栄泉 ~The 樽~」も返礼品として出品。

「ふるさと納税の仕事をしていると、『この地域には返礼品がないから、新しく作り出そう』という状況によく遭遇します。地域の人々が喜んでくれるもので、さらには地域の収入にも繋がるような商品を開発し、地域を豊かにしたいと思っています。」

ふるさと納税事業はゴールではなくスタート

産品の開発や返礼品にまつわる寄付受領書のデザインなど、業務は多岐に渡るが楽しくて仕方ないと加納さんが語る。
「地域の方々と直接話し合い、共に何かを作り上げる過程がとても好きです。困難に直面しても一緒にそれを乗り越えて形にできる喜びは格別です。でも、事業者さんや自治体の方々が喜んでくれても、最終的にその商品が市場で受け入れられなければ意味がないんですよ。一緒に考え、試行錯誤を続けることが、私にとっては非常に楽しいんです。」

コミュニケーションを重ねるたび、事業者や自治体との結び付きや信頼が強まっていくのを感じるそう。だからこそ、利尻富士町と幌延町のコラボのように自治体の枠組みを超えた協力も可能になる。

「異なる事業者同士を繋げることで、新しい商品やサービスを生み出すような取り組みも行っています」

人と人とを繋げることで、一つひとつの地域が持つ力が多彩に広がっていく。そのハブとなるのが加納さんでありスプレスだ。

「ITが進化し続ける現在でも、根本には人間力が必要だと強く感じています。私たちは、自治体から委託される業務に対して、覚悟を持って取り組んでいます。スプレスに任せて良かったと思ってもらえるような結果を残すことが私たちの目標です。私たちが重視しているのは、スプレス自体の成績ではなく、それぞれの自治体の成果を昨年度と比較して向上させること。この目標に対しては、特に強いこだわりを持ち、努力をしています」

事業成長の手応えを感じる中、自治体とも良好な関係性を構築ができてきた。

「成果が昨年と比較してプラスになっているだけでなく、自治体の解約率が低いのも私たちの特徴の一つです。新規営業活動は行っておらず、問い合わせや紹介を受けた自治体にのみに対応しています。プロポーザルへの参加も紹介や問い合わせがあった自治体に限定しています。スプレスの規模を大きくするために自治体数を増やすことには関心がありません。受託している自治体へのきめ細やかなサポートが疎かになるリスクがあるならば、自治体数を増やす必要はないと考えています」

地域に寄り添い、良いものを一緒に作るのがゴールではない。得た寄付を地域に再投資して良い循環を生み、それを継続させていくのが中間事業者に求められる役割なのだ。

「本当に、24時間休む暇がないくらい、やりたいことや必要なことを考え続けていると、頭がいっぱいになりますよ(笑)。ふるさと納税の世界では、自治体の成果に二極化が見られ、単に事業を運営しているだけでは不十分で、具体的な形で結果を出すことが求められています。私たち地域商社としては、ふるさと納税を良い方向にそしてのその先に進めるために、さらに力を入れて取り組んでいかなければならないと考えています」

スプレスは自治体と一緒に成長し、お互い学び合ったり協力し合ったりしながら、より良い地域の実現を目指していく。返礼品をきっかけに全国の寄付者が地方に関心を持つことで、地域が持つ可能性はもっと広がる。スプレスのような地域商社が、ローカルの魅力をますます輝かせるのだろう。

地域は“覚悟と再投資”でもっと良くなる、という加納さん。その理由を『読むふるさとチョイス』で語っていただいた。

(『読むふるさとチョイス』へ)

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