過疎化や少子高齢化で地域の力の低下が叫ばれる中、「世界と戦える地域を創る」を目指す会社が高知県須崎市にある。元公務員が立ち上げた株式会社パンクチュアルは、ふるさと納税業務、地域の特産品EC販売、ゆるキャラの運営やSNSマーケティング等地方創生業務を行う。今まで受託した自治体の寄付額は、一年以内に200%以上という伸び率に。地方の名産品をバズらせその魅力を全国に届けるなど、地域にスポットライトを当ててきた。今回お話しを伺ったのは、株式会社パンクチュアル代表取締役の守時健さん。市役所職員として働いていたからこそ見えた危機感、地域への再投資の重要性を語った。
過疎地から全国へ、地域の名産品を轟かせる
高知県須崎市は漁業・林業で栄えた歴史を持つが、今は人口減少が課題の過疎地域。守時さんはパンクチュアル立ち上げ以前、須崎市役所で公務員として働いていた。「何もない町」と言われていた町をPRすべく、二ホンカワウソのご当地ゆるキャラ「しんじょう君」を活用し、SNS戦略に乗り出した。
「市役所を退職してからパンクチュアルを立ち上げたのが、2020年3月。アルバイトも入れて100人位の規模の会社になりました。ふるさと納税受託やEC事業、地域活性化事業などをしていますが、ふるさと納税はどこもすごく伸びています。弊社が受託した自治体の寄付金額は、倍以上になっているんです。昨対比2000%の自治体も出ています」
須崎市の刃物メーカーでは、こんな大きな変化が現れたそう。
「須崎市で包丁を作っている方がいるんですけど、以前はそんなに売れていなかったんです。それがふるさと納税に出したら売れるようになりました。いろいろなところからお手紙が届くようになって、事業者さんも楽しくなっていったんです。百貨店に商品を出すようになったり、最終的にはフランスのイベントに一緒に行きました。フランスで包丁を研ぐパフォーマンスを披露したらバカ受けして。今はパリで包丁の先生をされています。こういうことはめちゃくちゃ面白いですよね」
パンクチュアルは須崎市独自の特産品ECサイト「高知かわうそ市場」の制作・運営も手がけた。開設初年度の売り上げは8億円を達成。コロナ渦には、地域の漁師さんを助けるためのECプロジェクトを実施。須崎市野見湾はカンパチの養殖発祥の地でありながら、当時は全国的に無名だった。うもれた名産品となっていた養殖カンパチをブランド化したところ、「須崎勘八」として売り上げや知名度が飛躍的に伸びたという。
「須崎勘八は『青空レストラン』でも紹介されるようになりました。我々はそういう支援ができるので、もっと広げていかなきゃと思っています」
須崎市のふるさと納税額は2020年度には21億円を突破。中四国エリア1位を記録するほどに。
「パンクチュアルには新入社員や新卒の子が結構いて、時代にマッチしているのが大きいです。『地方創生をやりたい』『地域で働きたい』という若い子がたくさんいます。その子たちは一生懸命働いてくれるので、こういう仕事とも相性がいいのが要因かもしれません」
地域のファンをつくる仕掛けづくり
地域の力を強める仕組みとしてふるさと納税にメリットを感じつつ、守時さんは課題感も抱いているそう。
「ふるさと納税は二極化しているじゃないですか。売れている自治体はさらに売れるし、売れない自治体は売れない。そこにはテクニックやマーケティングも必要です。我々も日々改善中ですが、上位の自治体以外はもっとやりようがあるんですよ」
自治体をサポートする強みとして、SNSの力は大きいという。
「SNSを使うと一瞬だけPVがすごく上がるとか、一瞬だけ購入数がすごく増えるということが起こりやすい。今までならテレビCMは普通の人にはできませんでしたが、時代が変わってきたところもありますよね。高知かわうそ市場のTwitter(現X)で、ブリがバズったことがあるんです」
コロナ禍で養殖ブリが28万匹も余っているという危機的状況をツイートしたところ、たくさんの人が反応。おかげでブリは廃棄されずに消費者の元へ届いた。
「その日の日本一バズったツイートでしたし、テレビで特集されるようになりました。テレビの特集は30分位で、5000万円分程ブリが売れました。ですがTwitter経由の売り上げはおよそ1億5000万円。SNSってテレビより強いんです。テレビを見て買おうと思ったら、検索しなきゃいけない。SNSならリンクが貼ってあるので購入が速いし、すごく広がりやすい。我々みたいな小さな会社でも影響力を発揮できる時代になってきました」
こうしたインターネットの影響力を駆使し、山口県下関市ではフグのマーケティングにも取り組んだ。
「下関ってフグが名産品じゃないですか。ですが、ふるさと納税のフグ全体のシェアが1割程だったんですよ。そこを取り戻すために、下関といえばフグという検索ワードで一年近く施策を続けて、今はランキング1位になりました」
地域の主力となる名産品の知名度向上に力を入れたところ、思わぬスポットライトも当たるように。
「下関の梨もすごく売れるようになりました。美味しいけど知られていなかったんですよね。誰もが知っている商品を売りながら、知られていない商品を勧める。こうしたマーケティングと発掘は、地域に住んでいないとできないんですよね。町中を車で運転しながら、『あれ何なんだろうね』と見つけたものを調べることができます」
EC事業では、今までオンラインショップを展開していなかった事業者の支援をすることも。
「地域のDXですごいなと思うのは、パソコンの使い方がわからなかった高齢者の農家さんに教えに行っていたら、注文が来たときの操作法などもできるようになるところ。ふるさと納税はそういった副次的な効果もありますよね」
地域が自力で稼いだお金を循環させる
パンクチュアルのような地域商社から見て、成長する事業者にはどんな特徴があるのだろう。
「事業者さんの熱意ですよね。ふるさと納税という新しい分野に一歩踏み出してみる、その勇気みたいなものがあると思います」
人間らしい想いがあって初めて、SNSマーケティングやECサイト運営など、テクノロジーが効果を発揮する。
「AIができる部分はたくさんあるんですけど、やっぱり事業者さんに会いに行って、どういう商品を作っているか写真に撮ったり料理したりするという工程は、AIにはなかなかできない。相手が欲しているものや困りごとを理解しないといけません。とはいえテクノロジーや仕組みでどうにかなる部分はたしかにあります」
全国の自治体に事業所を持つパンクチュアルでは、さまざまな戦略も生み出している。
「この商品はSNSでバズらせた方がいいなとか、ECで売ろうとか。補助金を使って生産性が上がることもあれば、クラウドファンディングで機械導入を検討することも。ふるさと納税だけでは解決法が限られてくるので、全方面でやれるようにしています」
目指すのは、「地域が自力で稼ぐ」ことだと守時さんは語る。
「地域でお金を循環させるという意味で、ふるさと納税はすごくいい制度だと思うんですよね。お金って回らなきゃいけないので、そこをもっと地域寄りにして自力で稼げるようにしていきたいです。そう考えると、ふるさと納税だけやっていても仕方ない。ふるさと納税の次というと、ECだったり海外戦略だったり。我々はいろいろな地域の課題解決をしているので、(情報が)常に入ってきます」
ふるさと納税で地域のエネルギーを蓄えつつ、寄付金に依存しないまちづくりに奮闘中。パンクチュアルがこれから仕掛けるチャレンジとは。
「地域にお金を還元するために、こども食堂を考えています。ふるさと納税などで得た利益を循環させつつ、地域の商品をそこで出していきたいですね。すると子どもたちは地域の美味しいものを食べて育っていける。特産品を作ったレシピづくりや地域の食育に繋げていけるよう、ストレートな地方創生を考えています」
ふるさと納税やSNSなど、ローカルな事業者を輝かせる方法は増えてきた。これから必要なのは、地域が自分たちの力で経済力を付けること。地域が自力で輝くために、パンクチュアルのような地域商社は頼もしい存在となるはず。日本全国で地域がどんどんエネルギーを蓄える未来が待ち遠しい。
地域は“コミット✖️再投資”でもっと良くなると守時さん。その理由を『読むふるさとチョイス』で語っています。
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